2001年2月21日公開(アルキス作)
無謀
◆前回までのあらすじ◆
宇宙暦3930年…
腕はいいが性格は最悪な宇宙連邦の警部、プリペント=ファイラ。
彼女のあまりの派手な活動に、連邦の上層部がついにファイラに処分を言い渡した。
それは第13地区太陽系に転勤させる事。
しかし、その処分の裏には「ファイラ抹殺」という影の計画があった。
だがその計画は見事に失敗、逆に連邦側が大きな痛手を受け、ファイラと連邦は完全に対立する。
その時、ファイラの前に、テロリストグループ“ケロンパ”のボス・田中平八が現れ、ファイラを
過去へ連れ去ろうとする。
こうして、タイムワープ中にファイラの催眠術で彼女の忠実な下僕となった田中平八とファイラは
過去の太陽系にある「地球」と言う星の前に辿り着いたのだった…
HP連動企画 第6話「ウイルス」
「ふーん、あれが地球ねぇ… 確か写真で見た事あるけど」
ファイラは初めて見る地球を見て言った。しかし、その口調は淡々としたものだった。
「でも、地球人は破壊活動ばっかりしてるって聞いたわ。2000年前の宇宙戦争だって、地球人が原
因だって話も聞くほどだし。私の中にも地球人の血が半分流れてると思うと、やな気分ね」
その時田中は、“ファイラはしっかりと地球人の血を受け継いでいる”と確信した。
「で? 私を過去に来させて、一体何をさせるつもり?」
「今はちょうど、地球人のクラッカーチーム(今言われているハッカーは、本当はクラッカーと言う)
が、強力なコンピューターウイルスを作っている最中です。という訳で、それを奪って来て下さい」
そう言いながら田中は、地球のある大陸に船を降ろした。その場所は街中では無く、寂しい荒野と言
った感じだった。
「ここは?」
「●●●●(自粛)と言う国です。さぁ、そこにある建物から、ウイルスを」
田中が指す先には、大きい建物が建っていた。その周りは厳重に囲われており、一般人には入る事が
出来ない作りになっていた。
「ちょっと、どうやって入れって言うのよ?」
過去の世界をむやみに変えてはいけない事をファイラは知っていた。未来にどう影響するか解らない
からだ。その上で、この厳重な建物の中に入るのは難しい。それに、強力なウイルスを作る技術を持
つ研究者がいるのだ、建物の中には さぞ高レベルな侵入妨害システムがあるに違いない。
「なぁに、あなた様のお得意な方法で侵入されればよろしいのですよ」
田中は簡単に答える。もちろん、ファイラのお得意な方法と言ったらただ1つ、「破壊」しかない。
「あーら、私のお得意な方法でいいの? 未来が変わっても知らないわよ」
「ご心配には及びません。この建物は結局、ウイルスの完成しないまま、数ヶ月後に宇宙戦争で破壊さ
れます」
「あら、そう。じゃあ遠慮無く行って来ようかしら」
ファイラはそう言うと、壁を叩き壊した。もちろんその瞬間に警報ブザーが鳴り響いたが、そんな事は
おかまいなしだ。
…やがて、ファイラは研究室らしき部屋に辿り着いた。それまでに、高出力レーザー、落とし穴、後ろ
から転がって来る特大鉄球、落ちて来る吊り天上、お化け屋敷などの様々な装置があったが、ファイラ
はものともしなかった。
ファイラは、研究室らしき部屋のドアを思いきり叩き壊した。
「はぁーい、ファイラさんがウイルスを貰いに来てあげたわよー♪」
そこはやはり研究室だった。その中にいた人達は驚きの表情でファイラを見ていたが、すぐに気を取り
直し、ファイラに向かって叫んだ。
「★∵∞◇‥♀堰ク≦↑!!!?」
「戟℃‖√!!!!!」
「何言ってるか解んないわよ!!」
ファイラは、汎用の翻訳機(¥29800-)を忘れた事を後悔した。が、ここは破壊されるのだから別にど
うでもいいと考え直した。
「まぁいいわ。さて、ウイルスを頂こうかしら」
ファイラが研究室の中へ入ろうとする。しかし研究者がそれを許すはずも無く、武器を持って阻止しよ
うとした。それを見たファイラは、どこからともなくメガホンを取り出した。そして…
「わ━━━━━━━━━━!!!!!」
力の限り大声で叫んだ。その大声は狭い研究室の中では殺人的で、研究者達はその場で耳を押さえてう
ずくまった。
ファイラはその隙に部屋に入り、ウイルスを探す。程なくして、ウイルスのデータが入ったディスクを
見つけた。
「これが、強力なウイルスの入ったDVD-RAMね。」
ファイラは早速、それを持って田中の所に戻った。
「さぁ田中、持って来たわよ。これをどうすればいいの?」
「それを、宇宙戦争中に開発される“使途”と呼ばれるネットワークコンピュータに感染させるのです」
「“使途”って確か、13台のネットワーク型大脳コンピューターよね。だったら元の時間に戻りましょ」
それに対し、田中は首を横に振る。
「ダメです。元の時間ではプロテクトが完璧で、ウイルスなど感染できません。ですから、出来たばか
りの“使途”に感染させるのです」
「ふーん。宇宙連邦を潰そうって腹ね。じゃあ、“使途”が出来る時までワープしましょ」
しかし、それにも田中は首を横に振った。
「それもダメです。タイムワープ先から、さらに別の時間へはワープ出来ません。それに、もう船には
元の時間に戻る分のエネルギーしかありません」
「と言う事は、私は…」
その言葉に、やっと田中が首を縦に振った。
「はい。“使途”が完成するまで、宇宙戦争の真っ只中にいて頂きます。」
「え────────!?」
丁度その頃。
宇宙連邦は、ファイラがタイムワープする直前にいた場所に機械を投入した。
「“使途”の調整プログラム、か。宇宙連邦の規律を乱す者を排除するプログラム…。」
宇宙連邦政府の特別会議室で、数人の長官が話していた。
「そうだ。いくらファイラとは言え、調整プログラムにかかってはお陀仏だ。“使途”が最大の出力を
出せば、あらゆる物を原子にまで戻す事も可能」
「その通り。まさにファイラは袋のネズミだ。さっき投入したマシンが、ファイラがこの時間に戻って
来た瞬間に調整プログラムを発動させてくれる」
「“使途”がウイルスにでも感染しない限り、ファイラに生きる術は無い…」
その夜は、特別会議室からオヤジ達の笑い声が絶えなかったと言う。
第7話に続く。