2000年10月20日公開

ラジオ



バシッ!

…何か固い物を叩く音。

「このクソラジオ! いちいち音小さくすんじゃねーよ!」
…バシッ!

 この少年はラジオが大好きで、暇さえあれば常にラジオを聴いていた。いやそれどころか、ラジオを聴く為に無理矢理時間を割く事も珍しくなかった。少年は家の二階にある自分の部屋の窓から差し込む日光を浴びながらラジオを効くのが大好きだった。少年は昔からずっと同じラジオデッキを使っている。そろそろ故障してもおかしくは無い。少年もそれは充分承知しているのだが、故障による不具合が何度も続けば、やはりイライラしてしまうのは仕方の無い事だ。
 だが、少年はわずかばかり度が過ぎていた。故障しているにも関わらず、余計な出費をしたくないと言う理由で修理にも出さず、そのくせラジオデッキには日常のうっぷんを晴らすかの様に力を込めて叩いていた。
 少年をここまでイライラさせるきっかけを作ったのはラジオデッキの故障だが、一体どこが故障してしまったのか。それは、たまに音量が異常に下がってしまうのである。どこかの接触不良か何かが原因と思われるが、修理に出さないので詳細は不明だ。とにかく、少年は音が小さくなる事に対して相当ないらだちを覚えていた。

「……、また小さくなりやがって…! ボロラジオが、もうブッ壊れちまえ!」
 今日も少年は、二階の自分の部屋でラジオを聴いていた。そして今日も故障したラジオデッキを腹立たしく感じていた。少年はついに堪忍袋の緒が切れた。もう我慢の限界だ。
「壊す。ボロラジオに様はねぇ、壊して捨ててやる」
そう言いながら、少年はラジオデッキを叩き続けた。だんだんと力がこもって行く。少年は本気でラジオデッキを壊すつもりでいた。
 その時、ゆっくりとラジオの音量が上がって来た。今の打撃の衝撃で、故障箇所が一時的に回復したのだろうか。少年は一瞬迷った。一時的ではあるものの、音量の回復を素直に喜び再びラジオを聴くか、それともこのまま破壊するか。
 そして、少年の心が「破壊続行」へと傾きかけた時である。少年はわずかな違和感を感じた。それはラジオの音量が原因だった。なぜなら、音量が小さくなる前の音量よりわずかに大きい音がラジオデッキから聞こえて来ているからである。少年は疑問に思い、その拳を止めた。音量は、今さっき違和感を感じた時よりもさらに大きくなっている様に聞こえる。そう、ラジオの音量がどんどん大きくなっているのだ。少年は驚いたが、すぐに故障だと思って冷静にラジオの音量を下げた。だが、下がらない。まぁこれは、音量が下がっている時に上げようとしても無意味だったのと同様の現象だと考える事が出来るだろう。だがその次の瞬間からは違っていた。ラジオの音が、そのラジオデッキの音量の限界を超えて大きくなり続けているのだ。もはや耳をふさがないと、デッキと同じ部屋にいる事すら出来ない状況まで来ていた。だがまだ音量は上がり続ける。もう耳をどんなに強くふさいでも無意味に近くなっている。放っておけば、耳をふさいでいるのに鼓膜が破れそうな勢いだ。
 少年は足を使い、デッキの音量を0にした。だが案の定無意味だ。少年は焦りながらも冷静になり、デッキのプラグをコンセントから引き抜いた。…だが驚いた事に、電源が切れない。そうしている間にも、音量は着実に少年の鼓膜破壊へと近付いていた。
「…………!」
 少年は逃げ出した。あまりの音量と恐怖に、これ以上その部屋にいる事は不可能だった。少年は一心不乱に走った。そして一階へと続く階段にさしかかった。急いで階段を降りようとする少年。だが既に少年の頭の中はパニック状態に陥りかけていた。
「あっ!」
そう思った時にはもう手遅れだった。焦りのあまり足を引っ掛け、バランスを崩し………。

 ………すぐに一階にいた家族に発見され病院に運ばれたが、まもなく死亡した。


 直後、少年の死亡原因の調査の為に警察がやって来た。その時、ラジオの電源は切れていた。当然である。コンセントが抜けているのだから。
 調査によると、少年が帰宅してから事故発生まで、少年の部屋からは物音すらしなかったと言う。