2000年5月2日公開
侵攻
1.死の洞窟へ
西暦2090年。
「みんな! 俺達は今から、命を賭けた旅をしなければならない。準備は出来たか!?」
「おう!」
「当たり前だぜ!」
ここは、ある村の広場。そこに集まった数十人の有志が、互いに決意を確認しあっている。その群集の中心には台があり、みんなはそこに立つ一人の青年を見つめていた。
その青年の名はラムダ。今回の旅のリーダーである。
「これは生半可な気持ちで乗り切れる旅じゃない。本当に行くのかどうか、最後の選択を…」
「おいおいラムダ、今更そんな奴いねぇって」
ラムダの言葉を、親友・デルタがさえぎった。
「みんな気持ちは一つだぜ。なぁ!」
デルタの言葉に、群集全員がうなずいた。それぞれの顔は決意に満ち、一片の曇りもなかった。
「本当に…行くのかい?」
不意に声がした。群衆から少し離れた所で見ていた、旅に参加しない村民達の声だ。
「ああ… 俺達は行かなきゃいけないんだ。俺達と同じ種族の生物は、もうここにしかいない。俺達が絶滅しないためには、あの“死の洞窟”の最深部にある“知識の空間”に行くしかない」
「確かに“知識の空間”に行ければわしらは助かるが…」
ラムダは自分達の事を気遣ってくれる心優しい老婆に近づき、肩に手を乗せた。
「悪いな、ばあさん。見ての通り、俺達の決意はかたいんだ」
「そうかい………気を…つけるんだよ」
「…ああ!」
しぶしぶ納得した老婆の言葉に、ラムダ達は最後の返事をした。
「さあ…着いたぞ」
ラムダが口を開く。ラムダ達の前には、巨大な岩がそびえたっていた。
「リーダー、洞窟の入口が見当たりませんが…」
部隊の一人が言った。そう、彼の言う通り、この岩にはどこにも入口らしき所はない。
「いや、これは洞窟じゃない。この岩が、俺達を“死の洞窟”まで運んでくれるんだ。さあみんな、岩につかまれ」
ラムダにうながされ、部隊の全員が岩にしがみつく。…と、その時、岩が急に振動を始めた。
「な、何だ!?」
「どうなってんだ??」
部隊のメンバーは謎の振動に困惑している。しかしその手が放される事はない。
「大丈夫だ… いよいよ動き出したぞ。みんな、しっかりつかまれ!」
全員が岩をつかむ手に更なる力を入れる。その瞬間、大岩が猛スピードで空中へ浮かんだ。
「ラムダ! おい、ラムダ!」
声と共にラムダの両頬に痛みが走る。その痛みでラムダは目を覚ました。ラムダは仰向けになり、デルタのひざに頭を乗せていた。その回りには部隊のメンバーがいる。
「…み、みんな… ここは…?」
「何言ってんだよ、“死の洞窟”の中だろ? みんなで大岩に乗って入ったんじゃねぇか」
「そうですよ、リーダー!」
「大丈夫ですか?」
「ああ…」
ラムダはだんだん理解し始めてきた。そうだ、デルタの言う通り、俺達は大岩に乗ってここに来たんだ。
さっきまで俺は気絶していたのか。じゃあ、頬に感じた痛みはデルタが俺を起こすために…。
「悪い、みんな。心配かけたな………ん? ここは…“白い鉄”のトラップがあるはずだが…」
「ああ、それならもう俺達がやり過ごしたぜ。大仕事だったんだぞ、気絶したお前を担いであれをよけるのは。無事に帰ったら俺達全員にステーキ定食をおごれよな」
仲間が自分を守ってくれたのが嬉しかったのか、ラムダから笑みがこぼれた。
「へへ… わかった、約束する」
ラムダは立ちあがり、拳を握った。リーダーとして、もう今のような情けない姿をさらす訳にはいかない。
「…行こう!」
ラムダは再び気を引き締め、足を進めた。洞窟の中に光はなく、みんなそれぞれのライトで足元を照らしながら進んで行った。が、すぐに部隊は歩みを止めた。
部隊の足元には、底知れぬ深い闇が大口を開けていたのだ。